
怪獣と迷宮
会期:2017年6月17日(土) 〜 6月25日(日)
※土日のみ開廊(6/17・6/18・6/24・6/25)
開廊時間:15:00-20:00
会場:中央本線画廊 東京都杉並区上荻4-6-6
https://chuohonsengarou.tvvt.tv/
運営:株式会社サウンドオブアーキテクチャ
怪獣と迷宮ステートメントにかえて
私は2016年の秋頃から「怪獣」をモチーフとした平面作品を制作している。
しかし私にはまだ、なぜ私は怪獣を描くのかをはっきりとここに書き記すことができない。
かわりに、私にとって怪獣がどんな存在であるかを、ごく断片的にではあるがここで書いてみたい。
まず一般的に怪獣とは実在しない生物のことを指す。
人間がつくりだした想像上の生き物だ。
彼らはしばしば脅威の存在として、あるいは自分だけの不思議で親密な存在として、物語の中で描かれてきた。
あなたが1番に浮かぶ怪獣のイメージ・画像はどのようなものだろうか。
私にとって、まず1番に浮かぶ怪獣の姿は、武田美穂の絵本「となりのせきのますだくん」に出てくるような、とかげのような姿をした生き物だ。武田は、NHK教育テレビで放映されている人形劇「ざわざわ森のがんこちゃん」のキャラクターデザインでもよく知られている。
「となりのせきのますだくん」のあらすじをここに少し書いてみる。主人公は小学1年生の女の子、みほ︎ちゃんである。彼女は隣の席のいじわるな男の子「ますだくん」が苦手だ。毎朝重い足取りで学校に通い、憂鬱な日々を送っている。ますだくんは、みほちゃんよりも身体の大きな怪獣として描かれる。しかし彼は、実はそんなに悪いやつではなく、みほちゃんと仲良くなりたい気持ちが裏返しとなって彼女の嫌がることをしてしまっている。そんなある日、ひとつの出来事をきっかけに、みほちゃんもますだくんのことを、受け入れ難くも少しずつ理解し始める、というのがおおまかな話の流れである。
このように「となりのせきのますだくん」は、幼い子どもたちの間によくありそうなやりとりを、クラスメイトの男の子の姿を怪獣に重ねながら、女の子の視点から描いた作品である。みほちゃんにとってのますだくんの不可解さと不気味さ、心理的な距離感が、相手を怪獣として書くことで表されている。それがわかるように、最後の1ページでのますだくんの後ろ姿は人間の姿をしている。
たしかに私も実際に小学生の頃に似たような経験をした覚えがなくはない。ただここで念のために言っておくのだが、私は怪獣をコワい異性の姿として描いている訳ではもちろんない。
私たちは、恐ろしくもどこか親しみをもち、敵に見えるが悪者とは決めつけがたく、味方のようだが仲間には思えない存在に対して、ときに怪獣の姿を重ねるのではないか。怪獣と私たちは、共に心地よく過ごしていると思っていても、しばしば私たちに居心地の悪さを与える。私たちは彼らを、時にすすんで歓迎し、はたまた場合によって翻って駆逐する。
私にとっての怪獣とは、このような、常に判断保留を強いられる流動的なモザイク状のかたまりのことである。
言葉足らずではあるが、私は美術をしていく上で、この不可思議な「怪獣」について考えることが重要であると言いたい。
怪獣たちの流れる運動の痕跡を分析したい。
今はまだ、どんなにピンチアウトしても行き止まる色んな怪獣たちの、うごめく場景を描くことによってその手がかりを明らかにしたい。
※展覧会時の原文から、文章が読みづらい箇所を少し加筆修正しました(2023.9中村)
















