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​ジェンガと裂ける憶速

会期:2020年11月15日~11月22日
時間:12:00-20:00

※開場は火・木・日のみです。ご注意ください。
会場:プライベイト
都営新宿線大島駅から徒歩5分

https://tokyoprivate.theblog.me

わたしはこれまで怪獣をモチーフにした絵画シリーズを制作してきた。

 

怪獣はしばしば、戦争の象徴として描かれる。

被曝3世である私にとっての戦争とは、歴史的事象である以前に、とても身近な家族の生々しい記憶だった。それは日常の背景にいつも自然にある存在である存在であり、しかし、それにゆえに語ることが難しい存在でもあった。そして同時に、にもかかわらず、あまり現実感のないような、遠い出来事でもあった。どんなにそれが重要な問題だとおもっても、むしろそう思えば思うほど、思考が遮られる。ならば、その分裂を混ぜ合わせるようにして絵にすることが出来ないだろうか、それがわたしが怪獣を描く動機のひとつだったのかもしれない。

 

怪獣は、歴史的な過去や未来の負のイメージを担うような存在でもあるが、絵本や児童文学に出てくる怪獣をみてみると、自分だけが知っているような、奇妙な他者の姿がある。

 

本展では、怪獣を描いた作品も展示するが、それだけではない。かつて地球に住んでいた、ずっと前からもういない動物たちと、わたしが以前飼っていたペットも描いた。それらは、公と私という記憶のスケールを混ぜこぜにするためのべつのモチーフとして選ばれた。ペットは家族であり、友人である。ときに、わたしたちは彼らと親密な関係を築いているような気になるが、しかし同時に、何を考えているのかさっぱりわからない存在でもある。それは、怪獣のような他者の姿そのものでもある。

一方で、「ずっと前からいない動物」は、約70年前の日本というとても具体的で限定的な記憶に対して、時間的にも地理的にもかなり漠然としている。

 

本展のタイトルは、「ジェンガと裂ける憶速」とつけた。

「憶速」とは、2013年に高松市美術館で行われた大竹伸朗の回顧展覧会名であり、これは記憶の速度を意図した大竹の造語である。

この単語は大竹のある仮説がもとになっている。それは、「刻々と過ぎ去る「今」には、その時々の心の状態に呼応する「速度」が関わっているのではないか」というものだ。

大竹によれば、記憶には速度だけでなく密度があり、速度と密度は互いに関係がある。例えば、過去の記憶の密度は、現在の速度に反比例する。今が早く過ぎればすぎるほど、過去の記憶が明確になるということだ。

わたしの絵には、しばしば空間を裂くような線が入る。絵を描きすすめていると、だんだんと画面が硬直してしまうことがあり、そんなとき私はそれを壊すように線を刻んでいた。もしも記憶に速度と密度があるのなら、私はその憶速に、裂け目をいれようとしているのかもしれない。

記憶の密度に裂け目を入れる。そして密度が細かくなったり、粗くなったりする。記憶の速度が変化して、ビヨンビヨンと遠くへ行ったり近くで戻ったりする。それは、ブロック同士の摩擦に気をつけながら、引き抜いては積み上げなおしていく、不安定なジェンガにすこし似ている気がする。

※展覧会時の原文から、文章が読みづらい箇所をちょこっと加筆修正しました(2023.9)

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